新海誠監督にとって、この作品は大きな転換点になっていると思います。

『ほしのこえ』『雲の向こう、約束の場所』『秒速5センチメートル』『星を追う子ども』というこれまでの作品、いずれにおいても、彼は「物語」を作ることに成功していません。

前作『星を追う子ども』が唯一「物語もどき」の体をなしていますが、レビューで触れたように、嘘の「物語」です。

嘘の世界だからこそ作れた「物語」です。

しかし、今作で、遂に、新海監督は悲願である本物の「物語」を紡ぐことに成功します。

長かった笑

出来上がってしまえば、何故いままでたったこれだけのことができなかったのか不思議に思いますが、これが新海監督の歩む道なのですね。

いやあ、めでたい。

前作の失敗は、物語が作りたいあまりにファンタジーという不得意な「借り物」を使ったことにあります。

おそらくその揺り戻しで、今作はファンタジーではない、自分が日々生きてそして感じている肌感覚を重視した「現代」の作品になったのだと思います。

しかも、自信がなかったのか、ちょっぴり短めの時間の作品となっております笑

こういうところがいかにも新海監督らしいですね笑

好感が持てます笑

いや、でも、本当に冗談抜きに、自分にできることを背伸びをせずに表現した時の新海監督は、とんでもない才能を持った監督だと思います。

そうなれるであろう片鱗を、遂に見せてくれたという感じがしました。

話を戻しますが、自分の得意な世界を描いていますので、そこで動く人物達がしっかりと「生きて」います。

そして、タカオとユキノの関係性に注目してください。

以前の新海監督ですと、前半で二人を短編で描き、少しの空白を挟んでから、後半で別離した二人の短編を描くという手法を取ったはずです。

ですが、ですが。

今回は、遂にその空白を描きました！

単に静的なエピソードを連ねるのをやめて、人間関係が動的に大きく変化するところを描いたんですね。

タカオがユキノの正体を知ったところから、全てが転がり落ちるように終結点へ向かいます。

物語！

いや、でも、よくよく考えると、こんなの普通の映画やアニメでは当たり前に描かれていることですよね笑

そんな大げさなことでなくて。

それを描けるようになるまでに、一体どれだけの時間をかけたのか笑

その面倒臭さが新海監督の真骨頂なんでしょうね。

ホント、面倒臭い人です笑

しかし、途中で潰れずに製作者として歩みを止めず、それを応援する人々にも恵まれ、ここまで来た。

素晴らしいことです。

ついでにもう一つ良かった点を挙げますと、『秒速5センチメートル』のレビューで触れた、例の「童貞のイカ臭さ」が今作にはありません。（わからない人は『秒速5センチメートル』のレビューを読んでください）

むしろ、女性的な目線で描かれたシーンの方が多いくらい。

ただ、そうなってきますと、一つ心配なことが。

そうです。

新海誠は失敗と進化を繰り返す。

それを考えますと、次作が心配になってきます。

いよいよ、次作は『君の名は。』ですよ。

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